夏の終わり




夏の終わりは、だれもが感傷的になるものである。
否、なってもいいのである。
あんなに嫌味嫌っていた強すぎる日差しも、
蒼すぎるほど蒼かった空の色も、
いま飲み干したハイボールの泡のように消えてしまい、
何か大事なものを忘れてきてしまったような、
心にぽっかりと穴があいてしまったような思いだけが、
空になったグラスの底に残るのである。


夏はおじさんを少年に、少女を女に変える。
だから、私もまた郷愁のような思いを手放さなければならぬ。
あちらの世界からこちらの世界へ。
ゆっくりとソーダを注ぎ、
その飛沫に絡み取られるように琥珀が薄まるのを眺める。


虫取り網を持った少年が手を振って、笑っている。
私はとうにしわがれた手でぎこちなく応える。
セミの声はもう聞こえない。