佐世保ふーりっしゅはーと

♪世界が終わるなんて予言は信じない
 光の帯の中で、君を抱きしめる










雲海の切れ間に浮かんだ孤島に漂着するように、
機体は上下しながら、
ゆっくりと海の上に滑り降りた。
空港ロビーを出ると、雄大な山の背が拝める。
しかし、旅人のかすかな期待を裏切り、
見る間に空は蒼白していく。
「やはりだめか」だれともなくつぶやき、
車は簑島大橋を渡る。


有田まで高速を駆け、白い暖簾はためく名もなき食堂で、
長崎ちゃんぽんを食す。
ついでに鯨の刺身も所望。
ソコハカトナイ味がする。


仕事を片付け、佐世保に逗留。
とんねる通りをひやかし、大箱の呑み屋へ。
透き通る真烏賊やらカワハギやらの白身
馬刺し、揚げ物などを肴に、
思う存分溜飲を下げる。


そして、老舗ジャズバーへ潜り込む。
カウンター越しにネオンに照らされた通りが見える。
喧騒の中、軋むレコードのように酔いがまわりはじめ、
狭い店内には、ダニーボーイが流れる。
軍港の町・佐世保は、ふるさとと同じ酒の匂いがした。


ここは世界の終わりである。
切立った丘陵から川のような光が海に流れ出す。
窮屈で下世話で、颯爽と風が吹いている。
乱暴で横着で、それでいてなつかしい。


ここは世界の終わりである。
夢の残滓が人々の寝息とともに海へと溶け込む頃、
私はひとしれず杯を上げ、
まるで今生の別れをする恋人たちのような甘い笑顔で、
旧友と乾杯した。