おばさまについて
「これはあなたのために言っているのではなく、
みなさんのために言って差し上げているのです」
これは先日、私が仕事を終えて公園でタバコを燻らせていたとき、
とつぜん妙齢のおばさまから叱責されたせりふだ。
確かにそこは路上喫煙禁止区域で、吸っていた私が悪いにはちがいない。
しかしである。
私はわざわざ路上ではなく人気の無い公園に移り、
携帯灰皿も所持していた。
そんな小心者の私にもおばさまは容赦がなかったのだ。
「わかりました。消します」
と私は素直に従った。こちらに非があるのは明白だからだ。
でも、そんな私に言うくらいなら、
さっきもいた路上でプカプカふかしている手合いにいえばいいだろう、
との思いもよぎったのも真実だ。
あなたは正義だ。けれど正義を盾に振りかざしたとき、
それは正義といえるだろうか。
私にも禁煙論者の気持ちはわかる。
喫煙者の私でさえ、こんな場所で迷惑だなと思う場面に時々出くわすからだ。
しかし語弊を覚悟でいえば、たかがタバコであるし、たかが条令である。
まがりなりにも良心の呵責に苛まれ、
陰でこそこそ吹かしている私という弱者に対し、
あんな人間のクズのような物言いはないだろうと思うのだ。
しかもおばさまは「言って差し上げているのです」と言った。
どんだけ上目線なのだ。
このおばさまに限らず、突然女の人は絶対者になることがある。
それは自分に正義があると思うときだ。
つまり、私は正義よ。正義だからあなたは平伏しなさい、
正義だから何を言ってもいいのよ、となってしまう。
でも、世の中には正義よりももっと大切なことがある。
セクハラにストーカーに女性専用車両、
規制、規制、規制だ。
それによって助かる女性もいるだろう。
けれど、それ以上につけあがる女性も出てくるのだ。
全男性諸君に代わり私の言いたいことは、おば様のせりふをもって引用しよう。
「これはあなたのために言っているのではなく、
みなさんのために言って差し上げているのです」