松本ココア
松本の雪景色にすっかり冷え切ってしまった体を温めるのは、
はるかコードジボアールから届くカカオの香り漂う
あまーいあまーいココア。
あぜ道の上を綿帽子のようなシュガーパウダーが降り続け、
人気のない田圃は一面の白砂糖のベールに包まれる。
夢のようにあまいココアを口に含むと、
そんな記憶もあいまいに、曖昧さの中に溶けだし、
今日一日が汽車の響きのように遠ざかっていく。
迎えの夜行列車はやってこない。
私は登山家がテントで暖をとるように、
両手でカップをにぎりしめている。
甘い誘惑が睡魔を呼び、雪景色の中に倒れてしまいそう。
ここはバンクーバーではなく、松本。
ここはどこでもない、ただ音もなくシュガーが舞い降りるだけの森。