インセプション



夢の中の話は苦手だ。
夢の中で夢と気づいて目覚めようと格闘する。
やっとこさ起きると、そこもまた夢の中。
夢の中の階層を行ったり来たりする、
そんな辛い夢を見るのはご免だ。


幸福な夢もある。
夢と知りながら、その場所に留まりたい。
擦り切れた現実の隙間を癒してくれるような夢だ。
夢の中の人たちはみな優しく微笑む。


夢は個人の専売特許である。
土足で他人に入られたら、たまったものではない。
でも、誰かの夢にまぎれこむ欲望はある。
夢は夢と気づかずに見るのがいい。
朝焼けの陽光を浴び、
ああ、夢だったんだと思う一瞬がいい。