別れ雪

*別れ雪



レースが終わった途端、みぞれまじりの雪が落ちてきた。
それは、髀肉之嘆に明け暮れた今年への哀号なのか、
有終の美を飾れなかったブエナへの鎮魂なのかは知らぬ。
ただ天が与えもうた南柯の夢の如き演出を、阿呆然とした目で追いかけていた。


ついさっきまで、億尾にも考えていなかった年の終わり。
それが今、胸の端々まで込み上げてくるフシギ。
男はそんな思いを、手のひらに握りしめたはずれ馬券が拉げる感触と共に感じた。
それでも、再び冷めかけた熱情が胸の奥底から戻るわけもなく、
今日は昨日の続き。
知らぬ間に駆け抜けた日々だけが、
金色に染めた茶碗のように輝いて見えるのは何故か。


歓声を送る向こうで、無残に引き千切れられる現実。
パドックを周回した絵は幻となり、
夕ざめのターフを湿らせる飛礫になる。


みぞれは牡丹に化けて、駿馬の背に積もる。
その天に高く捧げる拳は一炊の夢ほどの迷いもないように、
男の瞼には映る。
しかし、会うは別れの始め。
去る者は日々に疎し。


理由あって街を出る人は、今日荷物列車の過中。
綾とり糸がゆっくりと解けるように、
その窓から見えるか、別れ雪。