照柿


♪真夜中の冷蔵庫に手をかけて
そして本当のことが知りたいんだと君は言う
食べかけのピザをそっとかたづけて
誰も聞こえない声で君は歌ってる


佐野元春を聴きながら、
だらだらと仕事にはげむ
彼は歌う
"傷ついたのは君のせいじゃない"


昨夜は文庫本化された高村薫の「照柿」を再読。
狂いだしそうな沸点の夏、
合田雄一郎刑事は乗り合わせた電車で飛び込み自殺に遭遇。
そこで出会った美保子に一目惚れしてしまう。
罪と罰」をモチーフにしているというが、
まさに照柿色に焼けつく陽射しの中で、
徐々に崩壊していく刑事、犯人、女。


高村薫の小説は、どれも細微まで徹底的に描く。
主人公を、犯人を、鋭利な刃物で切り刻む。
状況は悪くなるばかり、
何も解決しない、
何の救いもない。
ただダメになってしまう。
「レディジョーカー」なども、読み終えたときは
正直ぐったりしてしまった。
とても健康な人間にオススメできる小説じゃない。


照柿

照柿


結局、人間は運命には逆らえない。
また逆らおうともしない。
まるで食べかけのピザを眺めるように、
そのことが痛切に残る。
うだるような夏の盛りに、
こんな暑苦しい小説を読む私もどうかしている。


佐野元春を聴きながら、
だらだらと仕事にはげむ
彼は歌う
"時が流れても何も変らない"