広島道中膝栗毛
明空より車中4時間。
日本の縮図と形容される広島の空は黄砂で白んでいた。
おまけに遮断された外気が湿度を便乗させている。
「最悪・・・」
早くも私は肩を落した。
そこからローカル線とモノレールを乗り継いで取材先へ向かうと、
炎天の空中庭園で童子が跳ねている。
「最悪の二乗・・・」
私は再び肩を揺らした。
仕事にケリをつけたら、
目に映るは黄金色に耀くビールの咆哮のみ。
一路広島市街へと足取りも軽やか。
予てより目をつけていた店に出向く。
「早く飲みたか・・・」
高まる期待をグッと堪える中、差し向けられるリーデルのビールグラス。
煌々と波打つ至福の杯を掲げる。
「うぐぐぐっ〜」とまずは一息に。
咽喉の奥にパッと花が咲く心地。
「椎名誠か!」と軽く自分につっこみを入れる。
窓の外をみやれば、夕刻とはいえまだ日は高い。
これぞ出張の醍醐味。
あまりのビール恋しさに無視していた思慮の浅い同行者に、
「これはリーデルのグラスといって云々カンヌン。。。」
と蘊蓄を語りだすが、途中で意味がないと気づきやめる。
明太子のエクレア皮包み、アスパラのパイ生地揚げ。
日頃ラーメンばっかり啜っている手合には上品すぎる前菜をいただく。
2杯目はこれも楽しみにしていた前割の焼酎をオーダー。
同行者はビールを再オーダー、やはり芸がない。
そこからは次々と出されるコース料理に舌鼓しつつ、
店主おすすめの吟醸酒をゆったりと味わう。
どれも繊細な口あたりに頬も緩む。
日本酒は辛口と疑わぬ貧相な心持の同行者も続く。
ホントに解っているのか?
今宵は尋ねまい。
次第に薄れゆく喧噪と意識の端境期。
この辺が丁度いいのに。
路面電車は黄砂の残骸を撒き、消え消えの町に。
初夏の火照りは広島市民球場のスタンドを吹き抜け平和記念公園へ。
憂う気持ちは宮島の朱い大鳥居を潜り抜けて、
馬鹿な輩同士のやじきた道中膝栗毛。