夜霧のロッカー

hajimechan2009-10-07





















♪夜更けの街に うるむ夜霧よ
知っているのか 別れの辛さ
いつか二人で つかむ幸せ 祈っておくれ
夜霧 夜霧 僕等はいつも そっと言うのさ
夜霧よ 今夜も ありがとう



白茶けた夜に聴くナンバー。
酒はやっぱり灘の辛口。
おいらはロッカーだけど、こんな日は別さ。
しんしんと秋も深まり、我が身の行く末が満月を見るように
くっきりと露わになる、そんなせつない夜には。


だいたい五十に手が届こうかというのに、
ロッカーを気取るのも骨が折れる。
胸の血潮はすっかり艶歌になびいちまってる。
仕方ないさ、おいらも農耕民族の出には変わりない。
何百年ひきづった土壌の色はそうそうオチやしないさ。


ああ、それにしてもあの映画のように、
「僕たちは千五百回の朝と昼、そして夜を過ごした」
なんていってみたいもんだぜ。
ふだんはアイラブユー、アイニージューなんて声高に歌っちゃいるが、
そんな浮いたセリフで愛が叶った試しはない。
ほとんど、行かないで、逃げないで、嫌いにならないで、だぜ。
黙って俺についてこい!なんて言った日にゃ、
振り返ったら、影もカタチも無くなってるのがオチ。


かましい通りの喧騒が漏れる、煤けたアパートの一室。
安手のジャージ姿でちびりちびりやる燗酒が喉にしみわたる。
いまはどんなブルージーな曲より、場末の流行歌が恋しい。
革ジャンはずせば、おいらもただのむさくるしい中年おやじだ。
スポットライトより、蛍光灯の下がお似合いなのさ。


それにしてもあの女もいいたまだぜ。
さんざんタカリ続けた縁の切れ目に、
なけなしの貯金通帳までもっていきやがった。
これから町は寒くなるいっぽうだっていうのに、
おいらの懐はスカンピン。屁もでやしねえ。


窓の外はこぬか雨。
夜霧はおいらの心の中。
むせび泣くなよ、近所の老犬。
渡る世間は鬼ばかり
顔で笑って心で泣いて、
それが漢の生きる道。
おいらはいつもそっと言うのさ
夜霧よ 今夜も サンキューベリマッチ