翔けよ、ダービー

*翔けよ、ダービー






「大外でもいい、賞金もいらない、だからダービーで走らせてくれ」
中野渡清一



青天白日で迎えよ、ダービー。
青く繁る芝生の上を翔けよ、優駿たち。
ひとたびゲートが開けば、言葉は空に溶ける。
たゆとう雲の背に、失いしさまざまな夢が馳せる。
蹄の音はまだ遠い。
もう決してやってこない胸に秘めた熱情を抱き、
色鮮やかなゼッケンの旗がふられる。
あの津波のような歓声に掻き消される前に、
私たちは一瞬、無重力の羽根をひろげ、
かつての生きざまを哀願する。
若さとか、愚かさとか、
蹄の音はまだ遠い。
越えなければならぬコーナーはまだある。
生きる意味とか、レーゾンテイルとか、
やがてくるフィナーレに向かって、
鞭をしならせるその瞬間まで。